はじめに
私のサイトでは、5年以上前に執筆した「NAS専用OSを使って自作NASを構築する記事」のPVが一定数ある。
しかし実のところ、私は数年前にNASの運用をやめている。(サーバを建てようと思い、このドメインにアクセスしていただいた方には申し訳ありません…)
現在の構成は、USB接続のポータブルSSDと外付けHDDのみだ。
本記事では、なぜNASを手放したのか、そして実際にやめてみてどう感じたのかを書いていきたい。
そもそもの転機として、記事公開から2年ほど経った頃に、外付けHDDが急に必要になり、ファイルサーバーを停止して殻割りしていたHDDを元のケースに戻し、単体で使ってみたことがある。
そのとき、「NASがないほうが快適ではないか」と感じた。
それがすべての始まりだった。
なぜNASを使っていたのか
理由は単純で、便利だからである。
常時接続でどこからでもアクセスでき、自動バックアップも可能。RAID1による冗長化もあり、安心感もあった。当時は「これが最適解だ」と疑わなかった。
しかし、運用を続けるうちに、少しずつ疑問点が積み重なっていった。
常時運用への疑問
まず気になったのは電気代だった。
余ったPCパーツで組んだ自作機だからという理由もあるが、24時間365日動き続ける機器が部屋にあるという事実は、心理的な負担にもなっていた。
さらに騒音の問題もある。殻割りHDDは回転数が高く、ケースとの相性もあまり良くなかったため、シーク音が低く響くことがあった。日常生活の中で常にわずかな駆動音が存在するというのは、想像以上に意識に残る。
データを保管するための装置なのに、その装置を維持するために注意力やコストを払い続けている構図に、疑問を感じるようになった。
もちろん、NASを構築した経験自体を後悔しているわけではない。当時は新しいディストリビューションを試すこと自体が楽しく、学びも多かった。
ただ、「増え続けるデータを守るために、増え続けるコストを払い続ける構造」は、本当に持続可能なのかと考えるようになった。
外部に公開している自宅サーバーは居住建屋とは別の家にあるため、その存在もNASが不要である理由が大きい。
NASを用いて自宅サーバを公開するのも流行りだが、外部公開用には既にそれがある。
ローカルファーストという再設計
そこで立ち返ったのは、「本当に常時接続が必要なのか」という問いだった。
私は巨大ファイルを複数端末から同時に扱うわけでもなく、外出先からアクセスしなければ困るような重要データを抱えているわけでもない。
そう考えると、常時稼働のNASは自分の用途に対して過剰設計だった。
「いつでもアクセス可能」という前提を捨てると、構成は驚くほど単純になる。
現在の構成
現在は、ポータブルSSD(1TB)を作業用のアクティブデータ保存先として使い、外付けHDD(8TB)をアーカイブ兼バックアップ用途としている。
※以前の記事にも書いたが、WDのHDDのUSBケーブルはなぜか弱いので、別のものを買っておいたほうが便利。
ポータブルSSDは院生時代、外で作業する機会が多かったため購入したものだが、結果的にこの構成の中核となった。外付けHDDは、かつてNASに使っていた殻割りHDDを元のケースに戻して再利用している。
必要なときだけ接続し、作業が終われば外す。電源は入れっぱなしにしない。
それだけの運用で、特に困ることはなかった。
時代はNASであり、Amazonを眺めていても様々なメーカーが個人用NASキットを販売し始めている。
この構成は時代に逆行していると思われるかもしれないが、個人的にはこの構成がノイズが少なく管理しやすいことに気がついてしまった。
この環境に移る際に、かなりのデータ量を削除した。
「今後使うかも」と無駄に保存していたドライバやフリーソフトのインストーラ、
WindowsのISOファイル。
また、以前に
PLEX PX-W3PE
を運用していたこともあり、それ関連のデータが大量にあった。
数年経って一度も開いていない放送データもあったため、ほとんどを削除した。
生活の質が上がった理由
まず、部屋が完全に無音になった。常時稼働する機器がなくなり、わずかな駆動音から解放されたことは思いのほか大きい。
また、ATXマザボで組んでしまったのも原因ではあるが、フルタワーのATXケースが部屋にあることが合わなくなってきた。
次に、管理対象が減った。OSアップデートや障害対応、ストレージ監視といったタスクから自由になり、意識を割く対象がひとつ減った。
さらに、電気代への漠然とした不安も消えた。
そして何より大きかったのは、「データを守るための装置を守る」という二重構造から解放されたことだった。ストレージのためのインフラを維持する生活から、必要なときだけ使う道具へと役割を戻したことで、心理的にも軽くなった。
また、ポータブルSSDだと15.0gなので、持ち歩いても重さを考えなくていい。

RAIDはバックアップではない
これはよく言われることだが、RAIDは可用性を高める仕組みであって、バックアップではない。
それならば、定期的にバックアップを取り、別媒体に保存し、必要であればProtonDrive等のクラウドにも保管する。そうした運用のほうが、自分の用途には合理的だった。
NASが向いている人
もちろん、NAS自体が悪いわけではない。
家族でデータを共有する環境や、常時メディアサーバーが必要な場合、大量同時アクセスが発生する環境、あるいは仮想化基盤として活用する用途であれば、NASは非常に合理的な選択肢になる。
重要なのは、用途と設計が一致しているかどうかだ。
結論
NASは優れた技術であり、適切な用途では強力な選択肢である。
しかし、単身でローカル完結型、かつ低頻度アクセスの用途であれば、USB接続SSDと外付けHDDだけで十分だった。
今回の変更は単なるストレージ構成の見直しではない。常時稼働を減らし、管理対象を減らし、過剰な設計を手放すという思想の転換だった。
データ保管にかかるコストを考える
2026年現在、世界的にデータセンタの拡張合戦が続いており、RAMやSSD、HDDまでもが価格高騰している。
以前のNAS構築記事で書いた8TB外付けHDDを1.4万程度で購入できていたが、今となっては目も当てられない価格になっている。
コンシューマ向けのPCパーツは生産量を落とし、データセンタ向けを強化するため、まだまだ値上がりするという予想もある。
NASに限った話ではないが、コンシューマはデータ保管にかかるコストを一度真剣に考え直す必要があると思う。


